2021.10.26更新

A、投球肩痛はどこから来るのか?

1,可動域の変化
肩痛では投球側の肩外転90°で内旋角が減少し、外旋角の増加がみられる。後方の関節包のストレッチで改善が見られたとの報告も多い。
しかし、健側との比較では、全可動域角度は同じで、-5°以下から186°以上
では障害発生になりやすいと言われている。
2,骨性変化
投球側では上腕骨の後捻角の増大、臼蓋の後捻化が起こり、外旋可動域が増加し投球能力が上がる。また、上腕骨結節間溝の骨棘形成も出現する。臼蓋後方の骨棘はキシロカインテストで陽性であれば切除で軽快する。
3,軟部組織の変化
 投球側では後方関節包の肥厚が見られ、外転外旋動作時に肩甲上腕関節で骨頭と関節窩軟骨の接触点が上方にシフトしていく。フォロースルーで肩関節内旋と内転が肩後方へのストレスを与え関節包靭帯に線維化と短縮をもたらす。
4,投球障害発生理論の研究
 1970年代ではインピンジメント症候群に対して、肩峰形成術は成績が悪かった。その後Jobeらは外旋動作の繰り返しで前方関節包の弛緩が起き、結果として関節窩後上方でのインピンジメントが起きるとした。しかし、前方制動術は結果が出なかった。2000年にはBurkhartらは後下関節上腕靭帯短縮に伴う骨頭後方シフトが過度に生じると関節唇の内側へのずり落ち(peel-back)がSLAP現象、インターナルインピンジメント症候群を引き起こすと述べた。さらに、前方関節包の弛緩は生理的代償であるため、前方関節包縫縮は行ってはいけないと言った。
投球ストレスで短縮した後下方関節包靭帯により骨頭と関節窩のコンタクトポイントが後上方へとシフトし、これによりインターナルインピンジメントが回避されると同時に骨頭が前方関節包へ突き上げる現象が軽減され、より大きな外旋可動域が実現し速い投球が可能となる。
一方、オーバーユースや限界を超えた応力がインターナルインピンジメントによる圧迫、過度のpeel-backによる引張応力、過外旋から内旋までに上腕二頭筋長頭、関節唇への剪断応力が肩痛の原因となる。

B、投球動作のメカニクスと投球障害の発生メカニズム

1,はじめに
 投球障害の要因は①関節上腕靭帯の動態と②慣性である。
<関節上腕靭帯の動態>
上腕骨の最大外旋と最大内旋時に起こる靭帯の緊張はclose packed position(CPP)といい、それ以外の緩んだ状態をloose packed position(LPP)と言う。CPPでは関節性の安定性が最大になるので筋力の影響は受けないが、LPPでは筋性の影響を受ける。
<慣性>
 肩関節はコックアップからフォロースルーまで高速動作により慣性による受動的な運動を受け、慣性は最小抵抗部位の運動を誘発する。不良動作としての肘下がりや身体の開きは慣性による受動的な運動であり、意識して動かしているわけではない。しかし、前運動で能動的なエラーが起きると正しい方向には誘導されない。
2,関節内インピンジメント
LPPで後方への慣性が大きく働く時に水平外転は大きくなる。そうすると、scapula planeが乱れ過角形成となり、CPPは固くなりAIGHL(anterior inferior glenohumeral ligament)が緊張する。また、肩甲骨を胸郭に引き付けすぎると肩甲骨周囲筋肉の機能障害、肩甲骨の外転・上方回旋が不十分だと肩関節の過角形成が起きる。
3,上方関節唇損傷
加速期の上腕骨高速内旋時に上腕骨頭の上方偏位・前方偏位があると骨頭と臼蓋の間で関節唇を挟み込み損傷すると考えられる。(spin motion concept)
オーバーユースで肩後下方に拘縮があると、CPP時にPIGHLは前下方で緊張して、骨頭を後上方に押し上げ、短縮した小円筋が肩甲骨外縁を引き下げて、肩甲上腕関節の外転角を減少させる。MER(maximum external rotation)では上腕骨頭上面は臼蓋に接しており上方へ滑りやすい状態にあり、この瞬間はforce couple機能は低下していると考えられる。加速期に入り、上腕骨頭の円錐運動で後上方から前上方への滑りが重複すると関節唇を挟み込み損傷すると思われる。
4,加速期後期からリリース、フォロースルー期肩後方の牽引障害
リリース直後の肩内旋が不足するとLPPの状態でフォロースルーとなり後下方の関節上腕靭帯・腱板群・上腕三頭筋長頭への負担が増す。
5,末梢からの運動連鎖
加速期後期での手の掌屈、前腕の回内運動は肩の内旋運動を誘導して、CPPとなり肩甲骨の前傾を誘導してscapula plane上でのリリース・フォロースルーへ移行する。
 上肢の適切な運動が肩甲骨に伝達し、動的支持機構である小円筋・棘下筋の負担を軽減する。さらに、肩甲骨から菱形筋・僧帽筋・広背筋などが張力を吸収しながら体幹に分散していく。しかし、前腕の回内が十分に行わなければ、LPPとなり上腕はscapula planeにはならず、肩関節で上腕は前方に屈曲して、小円筋・棘下筋・上腕三頭筋長頭に負担をかける。

C、 野球肩 機能的診断

1,運動連鎖の不具合
投球数が制限されて久しいが、オーバーワークでは投球数の影響だけでなく、運動連鎖との関連性が大きい。
 運動連鎖はボールをリリースするまでの運動とリリースしてから運動が終了するまでの2つのフェイズに分かれる。
 
2,骨盤・股関節
 90度屈曲位での股関節内旋制限と骨盤の運動性の関連性は大きく、骨盤の運動性を高めれば、股関節の可動域制限の改善につながる。
 骨盤の仙腸関節はその運動を代表する関節で、腸骨の前後の回旋運動に係わっている。仙骨のうなずき運動で腸骨の後方回旋、起き上がり運動で腸骨の前方回旋が起こり、骨盤全体ではひねり運動が生じる。
 近年、腹横筋の収縮は腸骨を内転させ、腸骨を後傾させ、仙骨のうなずき運動を誘導する。

3,胸郭
 胸郭の柔軟性は肩甲骨の可動域を上げ、肩関節自体の負担を減らすために重要な役割を担っている。胸郭の運動に関与する筋には大・小胸筋、肋間筋、腰方形筋、外腹斜筋があり、これらの筋が硬くなると骨盤と連結する筋肉にも影響を与え、骨盤の動きにも影響する。さらには、肋椎関節・胸肋関節の硬さ、脊椎のアライメント等も影響する。
 肩甲骨の動きはtake backのend pointに影響するので、胸郭の動きが十分でなければ、end pointでの肩甲上腕関節の障害を引き起こしやすくなるため、運動エネルギーを最大限に発生させるためにも胸郭の可動域はおろそかにできない。
 胸郭の柔軟性の評価
  胸部前面を乳首と胸骨で4区画に分け、胸肋関節近位の肋間を指で挟み上部は上外側へ、下部は臍の方向へ移動させる。特に第1~3胸肋関節、胸鎖関節、頚胸椎移行部の柔軟性が大事である。また、下部肋骨(浮遊肋骨)が開き(季肋角の拡大)、下方に誘導しづらいため、上部肋骨の動きに影響を与えることがある。投手でみられる胸郭出口症候群では、さらに第1胸椎肋椎関節前面を動かすことで上部胸郭の動きを出せる。

  参考:関節外科 基礎と臨床  2021 NO.10  Vol.40   山門 浩太朗、瀬戸口 芳正、藤井 康成ほか

投稿者: ベースボールクリニック 北城整形外科

2021.09.01更新


A. 強化のための3局面
より強く、より速く、よりうまくの概念がパワートレーニングということになります。
パワートレーニングというとウエイトトレーニングの比重が大きくなると思いがちですが、実は①ベーシック・パワートレーニング②トランスファー・パワートレーニング③スペシフィックパワートレーニングの3つの局面から構成されています。
①はウエイトトレーニングで、基礎的は筋力アップを計ります。②はジャンプトレー
ニングで筋力を動きの中で生かす。③は競技特性を考慮してトレーニングする。
つまり、素早いターンを②で獲得できても、これを制御できる①で得られる筋力が不十分であれば怪我を引き起こします。また、必要以上に筋力と筋肉量が増えては、③に影響が出ます。

B. 走り込みで下半身を強化できるか
走り込みで筋力と持久力を得ることは、古くからのトレーニング方法です。直線的な運動である陸上選手には有効であっても。複雑な動きが必要な競技では、直線的は運動能力の獲得は競技力の妨げになる場合があります。持久力も直線の動きの中のみで得るのではなく、競技特性を考慮してその獲得方法を考える必要があります。

C. 選手の自覚疲労度を可視化する
プロの競技は数か月もシーズンが続きますが、序盤・中盤・終盤ではその身体的状態に変化が起きます。疲労度が高いにも関わらず、練習量に変化がなく、コンディションが落ちていき、ついにはパフォーマンスが落ちて怪我をする。チーム全体で可視化できるデータ(血液検査、体力測定、コーチとの会話、食物摂取量、睡眠時間等)で管理しなければなりません。

D. そもそも、強化とは
身体に負荷をかけて、練習をすることを強化と呼んでいる場合が多いことは、これまでの認識ですが、これは疲労を残してでも筋力を鍛えるという悪しき習慣です。強化によってパフォーマンスが落ちていけば、当然これは強化にはならないはずです。
強化トレーニングで充実感を感じることよりも、パフォーマンスがどれだけ改善しているか考えなければなりません。

参考:谷 真一郎 コーチングクリニック 10月号 2021年

投稿者: ベースボールクリニック 北城整形外科

2021.03.31更新

特にケアしたい3要素

 サッカーやラグビー、野球の投手等は試合での体力の消耗が大きくなります。試合後のリカバリーには、①エネルギーの枯渇、②筋肉のダメージ、③脱水に対しての対処が必要です。

① エネルギーの枯渇
試合後には早期に炭水化物、たんぱく質を摂取して筋肉の破壊を補わなければなりません。炭水化物は高GI値のものを摂って、素早く血糖値を上げなければなりません。タンパク質は脂肪分の少ない肉を選びましょう。疲労で食物の摂取ができない選手はプロテインを摂取することも良いでしょう。
また、抗酸化作用のあるα―リノレン酸やオメガ3脂肪酸を含んだ食品(亜麻仁油、えごま油、鮭、さば)も効果的です。

② 筋肉のダメージ
下半身の疲労が著しい場合には、試合後にジョギング→両脚の挙上→ストレッチ→アイスバスが乳酸の排泄を促進するため有効ですが、試合後に時間が取れない場合があることが多く、あおむけになって壁に脚を立てて3分間の維持で血液を心臓に戻して行うことだけでもかなりの効果があります。
さらに、アイスバスは10~15℃の水温で長時間が効果がありますが、あまりにも冷たいのでできるだけで構わないと思います。

③ 脱水
試合後に減少した体重分の水分の補給が大切です。吸収性の高いスポーツドリンクが適切と思います。

試合の翌日

 試合後48時間は体内に疲労物質が残存するといわれており、翌日は完全にオフにするよりもアクティブリカバリーを行って回復の促進を考えたほうが適切です。体を動かすことで自分の筋力の足りないことが発見できたり、疲労度を確認して次の回復方法への参考になります。
参考:大塚慶輔 コーチングクリニック 5月号 2021年 

投稿者: ベースボールクリニック 北城整形外科

2020.04.10更新

筋断裂はMRI検査で評価するⅠ型(筋繊維部の損傷)、Ⅱ型(腱膜部の損傷)、Ⅲ型(筋腱付着部の損傷)の3型に分類でき、それぞれの分類でリハビリ計画が分かれる。
Ⅰ型では受傷後2~3日、Ⅱ型では1週間の安静期が必要である。その後の回復期には、Ⅰ型では1~2週間、Ⅱ型では4週目以降で徐々にストレスを加えていき、軽いランニング等の基本動作で始めます。さらに2週間後には特異的回復期には競技特有の動きを少しずつ加えていく。
受傷原因としては股関節屈曲易、膝伸展時、体幹回旋による股関節回旋位での着地が考えられるので、股関節回旋に制限を与えながらハムストリングの遠心性収縮エクササイズを行う。
一方、股関節伸展位でのハムストリング損傷の報告もあるので、股関節伸展位でのエクササイズも行わなければならない。
走っている時の骨盤前傾や殿筋機能不全はハムストリング肉離れの発生リスクを高めるので、特異的回復期には腰部-骨盤-股関節安定トレーニングは重要であり、これがうまくいかなければ再発の危険性が生じる。

    参考: 御園生 剛 整形・災害外科 4月号 2020年 VOL.63  P405-418

投稿者: ベースボールクリニック 北城整形外科

2019.12.12更新

1、メラニンと色素異常
  
 メラノサイト内で産生されたメラニンの量で皮膚の色は決定される。メラニンには黒色色素のユウメラニンと黄色色素のフェオメラニンの2つに大別される。この2つのメラニンの比率で皮膚や髪の色が違ってくる。金髪ではフェオメラニンが多数を占め、褐色から黒色ではユウメラニンが圧倒的に多くなる。
 メラニンの役割は日光から生体を保護することで、紫外線の吸収や紫外線によって生じた活性酸素や反応性に富む遊離基を取り込むことである。
 メラニンはチロシンから生じたインドール化合物とメラノソームの構造タンパクやチロジナーゼ等の酵素タンパクを巻き込んだ複合体として存在する。
チロジナーゼの活性が無い人ではチロジナーゼ陰性型白皮症で一生皮膚にメラニンができない。白人はチロジナーゼ活性が低く、ドーパキノンがユウメラニン生成の経路には流れず、もっぱらフェオメラニン生成の経路に向かい、金髪となる。
 メラニンはメラノサイト内のメラノソーム内で生成される。大型のメラノソームは黒人に多く、ユウメラニン量も多い。白人のメラノソームは小型で黄色人種のメラノソームはその中間の大きさである。発達したメラノソームはメラノサイトを出て、ケラチノサイトに移動する。メラノソーム内の巨大なメラニンタンパク複合体はメラニン顆粒となり表皮全体に広がっていく。メラノサイト数は人種によって差はなく、皮膚色の違いはメラニンの量による。
 紫外線による色素増加は、照射直後に生じるUVA(即時型)と数日後に出現するUVB(遅延型)によるものがある。即時型はメラニンポリマーが光酸化を受けて重合して黒化すると考えられている。遅延型はET-1/ETbR、SCF/KIT、αMSH/MCIRを介したメラニンの増加が考えられている。
 色素異常症はその殆どがメラニンの量の異常によって起こる。異常なメラニンが皮膚のどの部位に存在するかで肉眼的に見える色に変化する。表皮基底層から上層では褐色に、真皮表皮境界部では黒色に、表皮直下では灰紫色に、真皮浅層では濃青色に、真皮深層では青色に見える。
 病因論の面から色素異常症を考えると、真皮のメラノサイト増殖(dermal melanocytosis)メラノサイトの機能亢進(肝斑、紫外線による色素沈着)メラノサイトを刺激する生理活性物質の増加(色素性蕁麻疹)表皮メラノサイトの消失(尋常性白斑)等がある。
 しみと呼ばれる色素沈着は、肝斑、老人性色素班、脂漏性角化症、炎症後の色素沈着がある。女性のしみはほとんどが肝斑である。薄くて気にならないものを含めると80%以上の女性に認められる。30歳前後から出現し、妊娠・女性ホルモン・ピルで増悪し、閉経後に消褪する。夏場に増悪することから紫外線が発症に関与している。ハイドロキノン等の美白外用剤、紫外線防御で軽快することから紫外線の関与は強く支持される。

2、紫外線と光防御

 紫外線は3つの波長にさらに分類される。A紫外線(UVA) (320~400nm)、B紫外線(UVB) (290~320nm)、C紫外線(UVC) (<290nm)で生物効果の強さはC>B>Aの順となる。しかし、300nm以下のものはオゾン層で吸収されるため、UVBの一部とUVAが地上に降り注ぐ。
 UVAは波長が長いので真皮まで到達するが、UVBは10%しか真皮に到達しない。
 DNAの吸収スペクトルが240~300nmなので、UVBが直接DNAへ直接作用して障害を引き起こすが、UV-Aは酸化ストレスを介した間接作用をする。
 DNAの変化はその二重結合部分に起こり、塩基の損傷が主で、バックボーンには損傷を与えない。
 しかし、人間の皮膚にはDNA損傷を修復する機構があり、オリゴヌクレオチドが切り取られ、合成されたリガーゼにより結合される。
 紫外線は生理的な作用と光線過敏症などの疾病がある。急性障害としてサンバーン(炎症)、サンタン(色素沈着)、免疫抑制があり、慢性障害としてしみ、しわ、癌化等がある。色素細胞(メラノサイト)ではメラニンが生成され、しみが増え、ランゲルハンス細胞では免疫抑制が起こり、角化細胞では突然変異で癌化が起こる。
 日焼けは260nmでピークとなり、270~290nmでゆるやかなカーブとなりそれ以上では急に下がる。
 日焼け後の色素沈着は主にUVBで起こされるが、増殖したメラノサイトでメラニンが増加して角化細胞へ転送されて表皮に色素沈着、しわの造成が起きる。
UVAは真皮の深層に達するため、慢性に浴びると線維成分が変性し、しわ、たるみの原因になる。しかし、光老化の特徴である光線性弾性線維症はUVBが最も原因となる。一方、生体はメラニン色素の産生、角化細胞でのケラチン産生で太陽光から防御されている。
 紫外線による色素沈着には即時黒化と遅発性のサンタンの2種類がある。即時黒化はメラニン顆粒の前駆体が一時的、可逆的に黒化するためと考えられ、作用波長はUVAと可視光線である。遅発性のサンタンは照射後10時間で出現し、数か月持続する場合がある。UVBが主な原因で、種々の液性因子が産生され、メラニンの増加が起こる。
 光刺激で前駆体ビタミンDは表皮細胞内で産生され、肝臓と腎臓で活性化ビタミンD3となるが、過剰な光照射で分解が進行する。1日10分程度の日光浴で必要量を得られるという報告もある。1日の必要なビタミンDの量は2000IUと言われ鮭100g中に1500IUが含まれるとされている。
  
3、皮膚の老化

 皮膚の状態は生体の状態を大きく反映する。臓器、神経、筋肉、骨等の状態を皮膚の状態で判断することができる場合が多く、皮膚は生命現象とも言える。
 生命の老化が皮膚に現れることは、種の存続にはかけがえのないものである。
子供の目でも生命の老化がわかることは、生物社会を健全に維持することにはもっとも大切なこととも言える。
 皮膚の老化現象は不均一性の拡大とも言え、メラニン色素の偏りでしみとなり、皮下の脂肪層を含めた偏りがたるみになる。
 皮膚の色とは、表面での反射光、組織内で修飾を受けて出てきた光で主に決定され表皮の状態が大きく影響する。次いで真皮は血管があるためヘモグロビン量や血流の状態に依存する。また、一般的にしみのように黒ずんで見えるのは可視光がそこで吸収されているからであり、皮膚に貯まった垢でも同様に黒ずみ、目の周りのくまは真皮層の血流の悪さで生じるため時間で変化がある。
 褐色になるしみには肝斑、老人性色素班、炎症後色素沈着(黒皮症)があるが、基底層のメラノサイトで色素が過剰に生産された場合に一部が真皮層に脱落して青色味をおびる。メラニンは角化細胞内で徐々に分解されるが、黒人では巨大なメラニン顆粒が消化されずに残存しており、紫外線を吸収し続けている。一方、日本人では角化層には残存メラニンは無い。老化とともに角化細胞内にメラニンが残存する脂漏性角化症も知られている。

A) 表皮が主体の老化現象

a) 老人性色素班
真皮に突出する突起に基底細胞内に多くのメラニンが含有され、表皮全体はわずかに肥厚する。CO2レーザー、ルビーレーザー、液体窒素治療により、表皮を破壊した後に毛嚢から再生してきた表皮細胞で再上皮化が起こる。
b) 肝斑
20歳以降の女性に圧倒的にみられる頬部付近に発生する小斑状色素沈着のことであり、基底細胞のメラニン含有が均等に増加する。一般的なレーザーでは増悪することがあり、注意を要する。
c) 炎症後色素沈着
主に接触性皮膚炎に見られるが、主体は基底細胞のメラニン含有の増加である。真皮にメラニンを貪食した組織球が存在し、これが主体になれば皮膚色は青色になる。毛包には色素沈着は起こらないので、網状のしみになる。
d) 真皮内メラノサイト増加症
日本人には真皮の乳頭下層の後毛細管細静脈周囲に存在するメラノサイトが色素を産生し始めことにより、灰青色を帯びた黒褐色調の色素班が発生する。先天的であれば太田母斑が代表である。
 
B) 真皮が主体の老化現象

真皮には①一定以上伸長せず張力を保つ膠原繊維②収縮力を発揮する弾性線維③水分子を豊富に持つ細胞間基質があり、これを維持できればスラリとした美しい容貌が保証される。老化とともに自らの重量のせいで頬や尻がたるみ、腹も出る。
 肌理(きめ)は真皮層の線維の方向性、細胞間基質、乳頭層の厚さが規則正しく配列した時に美しくなる。胎児においては母体内で浮遊しており外的な圧力が無いために、出生直後は肌理が美しい。
 しわは真皮乳頭層にとどまるものと真皮結合組織層までおよぶものがある。表層のピーリングで真皮乳頭層の結合織まで及ぶため小じわは消すことができる。大きなしわは真皮網状層の膠原線維や弾性線維の質の低下が原因であるため、手術的に切除して表面積を縮小するか組織容積を増加させる方法(ヒアルロン酸注射)が選択される。
 成長期が過ぎると、膠原線維はコイル状から太く直線状になり張力の方向とは45度ずれて平行に並ぶ。弾性線維は膠原線維に圧排され、湾曲する。しかし10年程度は皮膚の伸展機構は維持されるので目立つ皮膚のたるみは無い。25歳がお肌の曲がり角と言われるゆえんである。
 老人期では直線的な膠原線維は張力負荷の下ではあまり影響はないが、弾性線維はその形状が固定してしまい復元できなくなる。

4、皮膚と栄養、食事

 角質細胞の合成は28日周期で繰り返され、角化がスムースに行われない場合は厚くなり角化症となる。基底細胞の栄養は充分に与えられなければならず、ケラチンの生成素材となる含硫アミノ酸を多く含むタンパク質を摂取しなければならない。ビタミンAも角化の過程には必要である。皮脂の分泌を抑えるためにビタミンB2、B6、Eの積極的な摂取が必要である。セラミド(脂質の一種。皮膚の保湿、柔軟性を維持する働き。)を構成するリン脂質中にはリノール酸、リノレン酸などの必須脂肪酸が含まれており、植物性油脂・魚油に多く含まれる。
 真皮は表皮の10倍の厚さがあり、コラーゲンやエラスチン、ムコ多糖類で構成され、コラーゲンは動物に存在し、ビタミンCがその生成に大きく関与している。
 コラーゲンの主原料はプロリン、アルギニン、シスチィンで、コンドロイチン硫酸も必要である。タウリンは皮膚の有害物質を除去する。
 ビタミンB2は皮脂の分泌を調整して、脂性肌を予防する。
 ビタミンB6は脂肪の代謝や皮膚の新陳代謝を促進する作用がある。
 ビタミンAはβカロチンを含む人参、かぼちゃ、海草を摂取して皮膚の保湿を保つ。
 ビタミンDは日光浴で体内で作られるが、食品でとることもできる。
 ビタミンEは皮脂の酸化を防ぐ栄養素として、肌荒れ防止に効果的である。
 亜鉛の欠乏は皮疹の状態が悪化し、口内炎、舌炎、脱毛、爪の変形を来す。
 銅の欠乏はコラーゲン産生に影響する。
 食物繊維の摂取不足は便秘を引き起こし、有害な代謝産物を腸内で再吸収してしまう。
 加工食品は各種ビタミンが含まれておらず、リンのとりすぎは骨粗鬆症になる。リノール酸等の不飽和脂肪酸はコレストロール値を下げるが、多量摂取で過酸化脂質になり、老化促進の原因となる。抗酸化作用のあるビタミンE等の摂取が同時に必要になる。
 Prebioticsとは、食物繊維やオリゴ糖に含まれる有益な腸内細菌の増殖や活動を刺激する因子で、腸管の粘膜防御作用が改善される。
 Probioticsとはビフィズス菌や乳酸菌等の経口摂取する微生物で免疫力の増強、感染予防の働きがある。
 α―リノレン酸を多く含むシソ油や魚介類の摂取で皮膚のアレルギー疾患に好成績を上げている。

5、皮膚とホルモン、月経、妊娠、閉経

 初潮を迎えると、卵巣からエストロゲン、プロゲストロンが分泌され、25歳ころにピークを迎え、40歳ころから分泌が低下し、45歳ころにはエストロゲンの欠乏により更年期を迎え、卵巣機能の停止で閉経となる。

 エストロゲンは皮膚の老化を抑制し、ケラチノサイトの細胞増殖を促進し紫外線、酸化ストレスから皮膚を守る。
 低濃度では炎症性サイトカインTNF-αの産生を抑制するが、高濃度ではこれを抑制し、抗炎症作用IL-10の産生を促進する。エストロゲン濃度が極めて高い妊娠中の体内環境ではTh2優位になり、全身性エリスマトーデス(SLE)は増悪し、尋常性乾癬は軽快する。
 皮膚繊維芽細胞にも作用して、TGF-β産生、コラーゲン、酸性ムコ多糖類、ヒアルロン酸の産生を促進する。
 メラノサイトのメラニン生成を促進し、妊娠中の色素沈着、肝斑の増悪に関与する。
 プロゲストロンは、T細胞のIL-4やIL-5の産生を促進し、Th2偏位を誘導する。真皮の繊維芽細胞に作用して、コラーゲンの増殖で皮膚の厚みを増し、皮脂の分泌も亢進する。

a 皮膚と月経
 エストロゲンの増加で卵胞が成熟して、排卵が起きる。その後プロゲストロンも分泌され黄体が形成されるが、妊娠が無ければ2つのホルモンは分泌が低下して、月経が開始される。
 月経でアトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、SLEが増悪する。

b 皮膚と妊娠
 肝斑・・エストロゲン、ACTHの増加で生じる。
 妊娠線(線状皮膚萎縮症)・・線状の瘢痕になる。皮膚の過伸展で弾性線維の断裂や妊娠中のコルチコステロイドが繊維芽細胞増殖抑制作用による。
 手掌紅班、くも状血管腫、多毛が見られる。

c 皮膚と閉経
 閉経前のおよそ10年間は更年期と言われる。エストロゲンの減少は、ほてり・発汗・頭痛・肩こり等の症状を引き起こす。
 表皮・真皮は萎縮し、コラーゲン量が減り、皮膚の保水性が低下し、皮膚は菲薄化し、たるんでしわが増え弾性力が低下する。

6、皮膚のアンチエイジング

 2000年に入ってから急速にアンチエイジングという言葉が使われるようになって医学、薬学、農学、健康・スポーツ等の多くの領域から参画されるようになった。食の問題、運動領域への取り組みとヒトの老化度を測定するという取り組み等の広範囲なものとなっている。
 アンチエイジングの問題はしわやしみをなくすことが代表されるように、美容皮膚科領域での治療がすべてと捉えられていることである。肥満、喫煙、アルコール、発癌等への対応もアンチエイジングの基本理念と言える。
 とは言え、見た目のアンチエイジングも大切であり、美容皮膚科の進歩に伴い、エストロゲンの分泌の少なくなった女性の皮膚は老化を感じさせるもっとも適した臓器といえる。
 レーザー、光治療器、フィラー、ボトックス、血小板移入、脂肪幹細胞移入、キレーション、エストロゲン等のホルモン療法があるが、今後のトピックスは脂肪幹細胞移入が中心になっていくことが予想される。
 運動療法には、有酸素運動と筋トレ、柔軟体操の3つの指導がある。週23のエクササイズを目標にしたり、運動量をストレッチ10分、散歩8000歩、筋トレ15分を行う。運動による成長ホルモン(GH)の増加は皮膚の血流を増加させ、くすみも改善することが予想される。
 GHの投与やエストロゲンの投与でGH、IGF-1、さらにはDHEA-s、を介する性ホルモンの増加が皮膚の老化を改善する。老化で減少するビタミンDの補充でしみ、くすみも改善され、さらに手術療法で口囲筋の引き締め、眼瞼下垂治療がある。
 BMIと死亡率、有病率には相関関係はあるともないとも言われているが、BMIは22~23が指標になる。水溶性抗酸化物質は1日に数回に分けて摂取するように指導し、粗食、低カロリー摂取が生命予後を延長する。亜鉛やセレン等の重金属の摂取も重要で、魚・オリーブオイル・野菜等の抗酸化物質が豊富な食物、低インシュリン(GI値の低い食事)、低脂肪、高タンパク質食摂取が大切である。
 厚労省が栄養機能食品と認めているのはビタミンB12、カルシウム、亜鉛、銅、マグネシウム、鉄のみである。抗酸化物質にはビタミンA、C、E、β-カロチンがあるが、美容領域の有用性のEBMとしては明らかではない。エストロゲン投与は乳がんの発生率を2倍に上げるとされ、問題となっているが、外用薬の開発に期待がかかっている。EDTA-2Naなどのキレート剤を点滴して血管内の重金属を取り除き、動脈硬化を改善する方法もある。ビタミンCの血管内への大量投与で強い抗酸化作用が得られると考えられている。

7、美容皮膚科診断の特殊性

 一般皮膚科診療とは異なり、美容皮膚科で扱う患者さんでは肉眼的には異常を発見しづらく、よく診なければわずかな異常を見過ごしてしまう事に陥りやすい。患者さんは自分の肌を化粧ののりが悪い、乾燥肌、がさがさ、ごわごわ、くすんだ肌等で表現し、肉眼的には正常肌との違いがわからない場合が多い。
 診療を始める際には、問診が大切であり、治したい症状、いつからの症状発現か、発症の原因、増悪因子、治療歴等は記録すべきである。また、治療を行っている最中に当初の目的からずれていくことがあるので注意を要する(しみの治療できたのに、ボトックスやコラーゲンの注射でしわの治療に変わっていく)。 
 ホームスキンケアでクレンジングの使用過多、洗顔でグリコール酸等の刺激性のある石鹸を長期間使用している、スクラブ洗顔、サリチル酸を含む化粧水の長期間使用等は事前によく聞いておき、不適切なスキンケアを中止にし、正常な皮膚になってから治療を開始しないと創傷治癒や炎症後色素沈着が遷延する。美容皮膚科の問診では日常のスキンケアで皮膚にダメージを与えていないかを厳しくチェックする必要がある。
 視診では、慢性で軽度な炎症の場合は発赤・発疹が極めて小さい場合があるので注意を要する。皮膚の光沢、きめ、毛(毛孔開大、毛根部の炎症等)、弾性・軟らかさ、しわによる凹凸、色むら、色素沈着を観察する。 
 50倍のマイクロスコープの使用で肉眼では観察できない皮膚を客観的に評価できる。またメラニンの沈着量と発赤の程度が数値で表現される色差計は有用である。
 診察の結果について、主訴の診断名、発生原因、効果的と思える治療法は残さずリストアップして、治療原理、それぞれの治療方法の利点・欠点、最終的に予想される治療効果や合併症とその転帰についても十分に説明して、治療方法を決定する。

8、スキンケア

a 保湿
 表面から10~20μmの深さまで水分に満ちた表皮細胞が存在し生命活動を営んでいる。そのため、水分の蒸発を防ぐために水分子を通さない角質の表皮が身体全体を覆っている。しかし、角層の厚さによりバリア機能は異なり、顔面は薄い角層なためバリア機能は低い。角層は10~15層の表皮ケラチノサイトが重なり、その間隙をセラミド、コレステロール、脂肪酸で埋めている。バリア機能の主体は細胞間脂質であり、セラミドの大きな分子がタンパク質と結びつきラメラ構造を構成する。表皮深部は水分で潤っているが、表層近くは乾いてくるので、どれだけ水分が含有しているかが重要となってくる。

b 角層の保湿成分
 皮脂はバリア機能は無いが水分保持には働く。これは男性ホルモンの影響で顔や頭、胸部や胸背部で分泌され、成人では上半身には乾皮症は起こりにくい。女性では30歳ころから皮脂の分泌が減少し、腰部の皮膚がかさつき痒くなる。皮脂の主成分の中性脂肪は皮膚の最近で分解され脂肪酸とグリセリンに分解されるが、グリセリンが高い水分保持に働く。また、角層のタンパク質であるフィラグリンはタンパク分解酵素によりアミノ酸に変わり、水と結合して角層に柔軟性を作り出す。さらに、表皮のケラチノサイトはヒアルロン酸を作り、保湿性を増していく。

c 保湿に働くスキンケア
 クレオパトらの時代から、油脂を皮膚に塗ることで保湿を行っていた。油脂は水分の補給はしないが、皮膚の表面を閉塞し水分を貯留するので、時間とともに角層の水分は増え、次第に皮膚を柔軟にする作用を持つ。これはエモリエント効果と言われる。
 油脂は水と混ざらないが、界面活性剤を混ぜるとよく混ざる。コールドクリームは脂っぽく、バニシングクリームは油分が少なくさらっとしている。モイスチャーローション(乳液)は水分が多くなっている。
 生体にある尿素は高濃度では、爪や毛などの硬いタンパクさえ軟らかくする作用があり、踵の角質を滑らかにする。ヒアルロン酸は、保湿剤として著しく角層水分含有量をあげる。
 製薬会社の外用剤は良いスキンケア効果をもつ化粧品会社の基礎化粧品に大きく劣る。有効性の高い保湿クリームを塗っても石鹸で洗い流せるということがこれまでの常識であったが、皮膚に連続して1日2回、数日間塗布していれば、その後中止にしても数日間は角層水分含有量は維持されるとわかった。

d 毛髪のスキンケア
 思春期になるとアンドロゲンの影響を受けて、全身で生毛が濃くなる。一方、アンドロゲンは成人男性で頭部の脱毛が生じるが、これは毛根のケラチノサイトが増殖を止め、線維化が進むからである。アンドロゲンの反応性を抑えるために抗アンドロゲン剤のフィナステリドの内服が有効である。高血圧薬のミノキシジルが有効であることも1980年代に米国でわかった。

e 皮脂分泌のスキンケア
 思春期からはアンドロゲンの刺激で分泌された皮脂が表皮を被い、頭部・顔面では脂ぎってくる。毛嚢内では常在細菌の働きで炎症が起こり、真皮内へ面皰が侵入すると激しい炎症が起こる。以前はサリチル酸エタノールや硫黄等の外用薬のみであったが、面皰に有効なレチノイド外用剤のアダバレンが導入されるようになった。
 顔の眉毛、尾翼の横、胸部や背中の中央部、腋の下、股は角層のバリア機能が劣っているため毛嚢炎になりやすい。石鹸やシャンプーでよく洗って微生物を排除しなければならない。

9、レーザー

a レーザー治療の原理
 目的となる色素に到達して、特異的に吸収される波長を放ち、その組織を十分に破壊できる照射エネルギーを持つ光を照射すれば瘢痕なく治療できる。
 具体的には、赤アザにはヘモグラビンに吸収される波長、色素病変にはメラニンに吸収される波長の光を用いなければならない。ただ、メラニンは黒い色素なので可視光線であればどの波長でも良いが、皮膚深度が深い色素には波長の長い光が必要になる。色素破壊には照射時間が必要であり、長時間になると周囲の組織に影響を与える。つまり、周囲組織に影響を与えない時間でパルス照射を用いなければならない。

b レーザー治療機
 色素病変を対象にするのであれば、血管内のヘモグラビンに影響のない630nm以上の波長が望ましい。また、メラノソームの熱緩和時間である50n秒より短いパルスでないといけない。
 Qスイッチレーザーは色素に限局するために、瞬時に白くなる(IWP)。パルス長が長いと周囲組織にも影響がおよぶためIWPは起こらない。しかし、発生したIWPも照射20分後にはメラノソーム内の微細な空砲が融合するために消失し、照射部は蕁麻疹用紅班が出現する。これも翌日には消失する。しかし、YAGレーザーのような衝撃波の強いものでは内出血も起こす。皮膚にびらんや水泡が生じたものは痂皮形成後落屑するが、紅班が数か月残る。
 色素が真皮に存在するものでは、初回の照射後に炎症性色素沈着が残っていれば、2回目の照射は表皮の色素に吸収される。さらに、活性化された表皮メラノサイトを破壊すれば脱色素班を生じることもある。理想的には炎症が治まってから2~3か月後に2回目の照射を行うことが望ましい。
 刺青(墨汁)はすべての可視光線を吸収するのでQスイッチレーザーが有効である。しかし、刺青(色がついている)は個々の色素に吸収される波長のレーザーを照射しなければならない。
 パルス幅がμ秒、m秒と長い光でも表皮内の色素に対して有効であるが、瘢痕形成の可能性が高くなるので、エネルギー照射量を減らさなければならない。
 休止期のメラノサイトにQスイッチレーザーを照射してもあまり損傷を当たれることはできない。照射後の色素は一時的に消失するが表皮が再生する際に照射周辺や残存したメラノサイトが活性化して色がかえって濃くなる。これが炎症後色素沈着である。一方、メラノサイトが活動期であれば、メラノサイトは破壊され、脱色素班になる。
 老人性色素班は病的ケラチノサイトを破壊すれば、正常表皮が再生する。
 肝斑はレーザー治療後に痂皮が剥がれると、色が消えるがすぐに炎症後色素沈着が起こり、1か月後にはかえって色素沈着が増強する。その後1年で元に戻る。
 雀斑の3分の1は太田母斑であり、その治療に準ずる。

c レーザー脱毛
 毛包に存在するfollicular stem cell(fsc)を破壊し、永久脱毛となるが、fscは毛根鞘の最外側に存在するためパルス幅を長くする必要がある。しかし、このパルス幅では皮膚を傷めてしまうので、パルス幅をある程度短くしなければならない。となれば、1回の治療では永久脱毛はできない。

d rejuvenation
 Photoablation・・・レーザーでピンポイントサイズで皮膚に穴をあけて皮膚表面の組織を除去する。
赤外線レーザーで組織が蒸散する。紫外線レーザーでタンパクに吸収されて光化学作用で組織が除去される。
Laser skin resurfacing・・・老化で変性した表皮と真皮上層をレーザーで除去
(Lsr) し、新たに皮膚を再生させる。皮膚にひきつれを起こしてしわを目立たなくする方法で、黄色人種ではかなり有効であるが頸部では、瘢痕が目立つ場合がある。
Non-ablative laser・・・Lsrは副作用のリスクが高いので、レーザー照射と同
(Nal) 時に皮膚を冷却するNalが開発された。水に吸収される水specific レーザーと血管周囲に障害を来す血管specific レーザーの2種類がある。
Fractional laser skin resurfacing・・・面で皮膚を削るLsrは瘢痕が目立つが
肉眼では見えないような点でskin resurfacingを行えば、瘢痕は目立たない。多数の点で削れば皮膚のしわ伸ばしに有効であるが、点で削るため何回も行わなければならない。特ににきび痕などの点状陥没痕には第一選択となる。

e 高出力パルス光発生装置
 IPLはm秒レベルのパルスレーザー装置に匹敵するため真皮内のメラノーシスの治療はできないが、表皮内のメラノーシスである老人性色素班や粘膜の色素班の治療に使用できる。しかし、レーザーよりエネルギー照射量が少ないため薄い色素班には効果は少ないが、痂皮形成や炎症後の色素沈着が少ないためすぐに化粧ができる利点がある。
 ヘモグロビンにも吸収される光を含んでいるので、毛細血管拡張症にも効果があり、また顔面の産毛の脱毛効果があるので、肌がつるつるになったと喜ばれる。

10、脱毛

 脱毛には毛抜き、shaving、wax脱毛、電気脱毛があるが1990年代からはレーザーホワイトライト脱毛(IPL type)が主流を占めている。
 毛抜きはhair shaftを除去することでanagen期の毛根を刺激して毛の成長を促し、かえって毛の成長を促すことが多い。
 電気脱毛はレーザーホワイトライト脱毛が普及するまで唯一の永久脱毛であった。電気で毛包を破壊するものである。施術後に感染を起こし毛包炎を起こす場合がある。
 レーザーホワイトライト脱毛の原理
  毛の中のメラニンをターゲットにして100℃以上にまで上昇させその部分を気化させる。その周囲の毛包は壊死する。メラニンは690nm領域で高い吸収をしめす。しかし、深層の真皮内の毛包は長い波長の方が到達するため、高い効果を表す。
  日本人では表皮のメラニンが多いため、熱傷等の皮膚トラブルが発生しやすいため、パルス幅を長めに設定し(10~50ms)、表皮や毛包のthermal relaxation time 10~100msを設ける。10msのパルス幅は長いという意見もあり、各社が開発に悩んでいるところである。
  レーザーホワイトライト装置はIPLタイプとして知られ、波長も500~1200nmというようにメラニンに吸収をもつブロードバンドであることが特徴である。
 レーザーホワイトライト脱毛を行う際に考慮すべきこと
  レーザーの出力を上げた方が脱毛の効果は大きくなる。しかし痛みも大きくなる。パルス幅が大きいほど出力も大きくしなければならない。
  パルス幅が小さいほど皮膚表面に熱傷が生じるため、冷却がひつようになる。大きなスポットサイズは処理も早く、深層まで到達する。
  日本人には長い波長、長いパルス幅が推奨され、広範囲の患部には大きなスポットサイズが望ましい。また、メラニン量が白人に比べて多いため、色素沈着や色素脱出を起こしやすい。特に日焼け後や処置後に日焼けする場合には施術を避けるべきである。その説明も必要である。出力の調整のためにテスト照射は望ましい。
 レーザーホワイトライト脱毛の手技
  施術前のビタミンAの塗布、日焼け、wax脱毛、毛抜きは禁止とする。術野の剃毛は必要である。施術前の冷却も行う方が良い。
  施術後は毛包の部分に一致して紅班と軽い浮腫があれば有効な施術と言える。

11、機器を用いたスキンレジュビネーション

  表皮損傷を伴う剥離的治療(ablative skin rejuvenation)と皮膚損傷を伴わない非剥離的治療(non-ablative skin rejuvenation)があり、レーザー・IPL・高周波などの熱源が用いられ、特にIPLは表皮と真皮の両方に効果がある。ここではIPLについて詳しく説明してみよう。
  IPLはIntense Pulsed Lightの略称で、広帯域の強力な可視光線を発振するフラッシュランプを称したものである。
  1990年代からあざの治療や脱毛治療に使用されたが、顔面の色素班の治療を受けた患者さんの皮膚が若返り効果を得たことから、顔面全体のレジュビネーションに用いられるようになった。3~4週間の間隔で5回程度の繰り返し治療が望ましい。
  適応は表皮性の色素沈着、皮膚の弾力性の低下、きめの乱れ、毛孔拡大、毛細血管拡大症であり、肝斑の治療には注意を要する。また、真皮に対する効果は比較的少ないので、しわやたるみの改善には期待すべきではない。
  利点としては、皮膚老化の総合的な改善が得られる。治療直後からメイクができる。短時間で顔全体の治療が可能である(10分間)。
  欠点としては、回数を重ねなければ効果がわからない。繰り返し治療(3~4週間毎に3~5回)で治療期間が長くなる。レーザー等の専門的な治療に劣る場合がある(Qスイッチレーザーによる色素班の治療)。しかし、IPLは治療後に炎症性色素沈着を起こしやすい人には、大変有用である。
  作用機序
a. 光熱溶解論 selective photothermolysis
血管性病変にはヘモグロビンの吸収がいい500nmの波長を含むIPLを用い、色素性病変には500nm前半から発振するIPLを用いる。肌の色が黒い人や肝斑の部位には600nmから発振したほうが良い。
b. 熱影響
IPLの光熱作用で真皮コラーゲンに微細損傷が起こると、新生コラーゲンが発生し、コラーゲンの量や密度が増加する。しかし、確かな波長やパルス幅がわかっていない。ただ、効果が広い波長、パルス幅と考えられるため、臨床的な効果は認められている。
  治療の実際
a. 強い照射と弱い照射を適切に扱う。顔全体の照射は肌の色と肝斑の有無で決定する。肌の色が濃い場合に強い照射は火傷する。肝斑は肌の色が薄くても弱くしなければならない。肝斑以外の色素班や毛細血管拡張症では強い照射でおこなえば少ない回数で高い効果が得られる。
b. 治療の効果はエンドポイントで探る必要がある。正常部分はピンク色、色素班は軽度濃変、毛細血管拡張症は消失、紫色に変色がエンドポイントであり、これが見られるまで数回追加照射を行う。
c. 経過は、色素班では3~7日後に痂皮が脱落して、色調が淡くなる。
毛細血管拡張症では数回の治療で実感する。コラーゲン増生で小じわは消失していく。
d. 合併症は火傷と肝斑悪化があり、手技の熟練や設定の加減で切り抜けられる。冷却や外用塗布剤で軽快するが、炎症後の色素沈着には気を付ける。
e. ADMはIPLでは改善を望めないので、UVカメラの利用で診断ができ、また潜在性の肝斑も診断できる。
f. 経過は、簡易画像解析装置(VI-SIA:Canfield社製)を用いると、双方にメリットがある。

12、ケミカルピーリング

 ケミカルピーリングは皮膚に化学薬品を塗布して表皮を剥離させることで皮膚の再生を目的としている。
 ケミカルピーリングは治療時の皮膚の状態を正確に把握していなければならず、診断が最も大切である。
a. 角層を剥離・・・グリコール酸、乳酸等(AHA)は角質細胞の接着を弱め、
サリチル酸は、角質を軟化、溶解させる。
AHAは細胞代謝を促進し、コラーゲン産生を促進し、チ
ロシナーゼ活性を抑制し、メラニン産生を抑制する。
b. 真皮までの剥離・・TCAは表皮や真皮細胞の壊死を誘導し、フェノールは
真皮血管内皮細胞のアポトーシスを誘導する。

 適応疾患は色素性疾患があるが、2004年には認められていたが、現在では推奨されていない。しわも認められていたが、小じわに適応があるとされている。

 効果と限界・・メラニンが真皮由来であれば、レーザーが推奨され、角質層レベルのくすみにはケミカルピーリングは良い適応がある。高齢者にはTCAなどの深いピーリングで皮膚の質感や市ワンオ改善に有効である。日光性色素班では、レーザーが推奨される。

13、トレチノイン療法

 レチノイドの外用で表皮において表皮角化細胞の強い増殖促進作用がみられ
表皮は肥厚する。レチノイドを大量に投与することで、ターンオーバーが早く
なり、落屑が激しくなり、さらに基底細胞周辺のメラニン排泄が促され、メラ
ニン産生を抑えるハイドロキノンとの併用で相乗効果がみられる。しかし、真
皮層のメラニンの減少はみられなかった。また、皮膚炎が高頻度で起こるため、
慎重に使用する必要がある。別作用として、角質の剥離が促されることから、
二次的に薬剤浸潤性が高まり、にきびへの治療効果が高まる。真皮では繊維芽
細胞のコラーゲン産生促進、MMP抑制で光老化による真皮菲薄化を抑制する。
 よって、尋常性痤瘡、尋常性乾癬、ケロイド、日光性角化症等の治療に使用
されていたが、外用剤は日本では未承認のため個人輸入となる。
色素疾患・・治療段階を漂白段階と治癒段階に分ける。
 漂白段階・・トレチノインを色素班だけに、注意深く塗布し2週間~6週間
       おく。
 治癒段階・・その後、色素が消失、軽減した段階でトレチノインを中止しハ
イドロキノンを4~6週間広範囲に塗布する。
再度、トレチノインを使用する場合には、耐性が消失する1~2か月後から始めることができる。
 過角化や真皮内色素沈着がある場合には、外用療法は有効でない場合が多い
ため、レーザー療法との併用が必要となる。

Skin rejuvenation(小じわ、皮膚の張りの改善)
 0.1%のトレチノインゲルを2日に1回程度顔全体に塗布し、必要に応じて濃度、回数を増やしていく。長期使用で表皮・真皮ともに肥厚して張りが出てくる。2か月間の使用で、2か月間以上の間隔を開ける。

14 肝斑

肝斑は後天性斑状色素増加症で表皮のメラニンの増加と真皮の光線性弾力線維変性を特徴とする。
原因としては、卵胞ホルモン、黄体ホルモンによる色素細胞の活性化によるとされる。また、紫外線が発症に不可欠であると言われ、メラノサイトが異常にメラニンを産生している。

30代、40代に多く、前額・頬骨・上口唇・下顎に左右対称に出現する。

メラノサイトの数は正常だが、サイズが大きくなり、発達した樹枝状突起の中にメラニンが認められる。基底層、その上の角化細胞内のメラニンの増殖が著明である。

トラネキサム酸の内服が第一選択で、その抗プラスミン作用で日光や避妊薬、妊娠により活性化するプラスミンを抑え、アラキドン酸やプロスタグランジンの産生を抑え、メラノサイト活性因子を抑制する。

0.1%のトレチノイン水性ゲル、5%ハイドロキノン乳酸軟膏の塗布で8か月後に改善する。

レーザー治療は有効性が確立していない。

15 老人性色素班

40歳以降に発症する日光露出部に多発する境界明瞭な褐色の色素班である。
角化細胞が光老化し色素細胞を活性化するET-1の分泌が亢進し、メラニンを多く含むケラチノサイトが増殖する。

 レーザーやIPLで良くなる。

 

16 しわとたるみ

 皮膚の乾燥や廊下によるものと表情筋の働きによるしわ、たるみがある。
 表情筋を弛緩させることによりしわを治療するという方法が定着してきており、レーザー治療やボツリヌス注射が有効である。

 しわやたるみは支点・力点・作用点の3つの要素で発生する。つまり、表情筋の収縮が力点で、皮膚の変形部位が作用点、皮下の支持靭帯が支点である。
皮下の脂肪を含めた組織の弾性・厚さの程度で発生の因子になる。

 治療は、力点と支点の改善が考えられる。力点はボツリヌス毒素注射や表情筋の切除で機能を停止にする。支点はフェイスリフトや靭帯切離術等がある。
また、作用点付近にはコラーゲン注射やレーザーによるレジュビレイションがある。

        参考:美容皮膚科学 改訂2版  南山堂

1、メラニンと色素異常
  
 メラノサイト内で産生されたメラニンの量で皮膚の色は決定される。メラニンには黒色色素のユウメラニンと黄色色素のフェオメラニンの2つに大別される。この2つのメラニンの比率で皮膚や髪の色が違ってくる。金髪ではフェオメラニンが多数を占め、褐色から黒色ではユウメラニンが圧倒的に多くなる。
 メラニンの役割は日光から生体を保護することで、紫外線の吸収や紫外線によって生じた活性酸素や反応性に富む遊離基を取り込むことである。
 メラニンはチロシンから生じたインドール化合物とメラノソームの構造タンパクやチロジナーゼ等の酵素タンパクを巻き込んだ複合体として存在する。
チロジナーゼの活性が無い人ではチロジナーゼ陰性型白皮症で一生皮膚にメラニンができない。白人はチロジナーゼ活性が低く、ドーパキノンがユウメラニン生成の経路には流れず、もっぱらフェオメラニン生成の経路に向かい、金髪となる。
 メラニンはメラノサイト内のメラノソーム内で生成される。大型のメラノソームは黒人に多く、ユウメラニン量も多い。白人のメラノソームは小型で黄色人種のメラノソームはその中間の大きさである。発達したメラノソームはメラノサイトを出て、ケラチノサイトに移動する。メラノソーム内の巨大なメラニンタンパク複合体はメラニン顆粒となり表皮全体に広がっていく。メラノサイト数は人種によって差はなく、皮膚色の違いはメラニンの量による。
 紫外線による色素増加は、照射直後に生じるUVA(即時型)と数日後に出現するUVB(遅延型)によるものがある。即時型はメラニンポリマーが光酸化を受けて重合して黒化すると考えられている。遅延型はET-1/ETbR、SCF/KIT、αMSH/MCIRを介したメラニンの増加が考えられている。
 色素異常症はその殆どがメラニンの量の異常によって起こる。異常なメラニンが皮膚のどの部位に存在するかで肉眼的に見える色に変化する。表皮基底層から上層では褐色に、真皮表皮境界部では黒色に、表皮直下では灰紫色に、真皮浅層では濃青色に、真皮深層では青色に見える。
 病因論の面から色素異常症を考えると、真皮のメラノサイト増殖(dermal melanocytosis)メラノサイトの機能亢進(肝斑、紫外線による色素沈着)メラノサイトを刺激する生理活性物質の増加(色素性蕁麻疹)表皮メラノサイトの消失(尋常性白斑)等がある。
 しみと呼ばれる色素沈着は、肝斑、老人性色素班、脂漏性角化症、炎症後の色素沈着がある。女性のしみはほとんどが肝斑である。薄くて気にならないものを含めると80%以上の女性に認められる。30歳前後から出現し、妊娠・女性ホルモン・ピルで増悪し、閉経後に消褪する。夏場に増悪することから紫外線が発症に関与している。ハイドロキノン等の美白外用剤、紫外線防御で軽快することから紫外線の関与は強く支持される。

2、紫外線と光防御

 紫外線は3つの波長にさらに分類される。A紫外線(UVA) (320~400nm)、B紫外線(UVB) (290~320nm)、C紫外線(UVC) (<290nm)で生物効果の強さはC>B>Aの順となる。しかし、300nm以下のものはオゾン層で吸収されるため、UVBの一部とUVAが地上に降り注ぐ。
 UVAは波長が長いので真皮まで到達するが、UVBは10%しか真皮に到達しない。
 DNAの吸収スペクトルが240~300nmなので、UVBが直接DNAへ直接作用して障害を引き起こすが、UV-Aは酸化ストレスを介した間接作用をする。
 DNAの変化はその二重結合部分に起こり、塩基の損傷が主で、バックボーンには損傷を与えない。
 しかし、人間の皮膚にはDNA損傷を修復する機構があり、オリゴヌクレオチドが切り取られ、合成されたリガーゼにより結合される。
 紫外線は生理的な作用と光線過敏症などの疾病がある。急性障害としてサンバーン(炎症)、サンタン(色素沈着)、免疫抑制があり、慢性障害としてしみ、しわ、癌化等がある。色素細胞(メラノサイト)ではメラニンが生成され、しみが増え、ランゲルハンス細胞では免疫抑制が起こり、角化細胞では突然変異で癌化が起こる。
 日焼けは260nmでピークとなり、270~290nmでゆるやかなカーブとなりそれ以上では急に下がる。
 日焼け後の色素沈着は主にUVBで起こされるが、増殖したメラノサイトでメラニンが増加して角化細胞へ転送されて表皮に色素沈着、しわの造成が起きる。
UVAは真皮の深層に達するため、慢性に浴びると線維成分が変性し、しわ、たるみの原因になる。しかし、光老化の特徴である光線性弾性線維症はUVBが最も原因となる。一方、生体はメラニン色素の産生、角化細胞でのケラチン産生で太陽光から防御されている。
 紫外線による色素沈着には即時黒化と遅発性のサンタンの2種類がある。即時黒化はメラニン顆粒の前駆体が一時的、可逆的に黒化するためと考えられ、作用波長はUVAと可視光線である。遅発性のサンタンは照射後10時間で出現し、数か月持続する場合がある。UVBが主な原因で、種々の液性因子が産生され、メラニンの増加が起こる。
 光刺激で前駆体ビタミンDは表皮細胞内で産生され、肝臓と腎臓で活性化ビタミンD3となるが、過剰な光照射で分解が進行する。1日10分程度の日光浴で必要量を得られるという報告もある。1日の必要なビタミンDの量は2000IUと言われ鮭100g中に1500IUが含まれるとされている。
  
3、皮膚の老化

 皮膚の状態は生体の状態を大きく反映する。臓器、神経、筋肉、骨等の状態を皮膚の状態で判断することができる場合が多く、皮膚は生命現象とも言える。
 生命の老化が皮膚に現れることは、種の存続にはかけがえのないものである。
子供の目でも生命の老化がわかることは、生物社会を健全に維持することにはもっとも大切なこととも言える。
 皮膚の老化現象は不均一性の拡大とも言え、メラニン色素の偏りでしみとなり、皮下の脂肪層を含めた偏りがたるみになる。
 皮膚の色とは、表面での反射光、組織内で修飾を受けて出てきた光で主に決定され表皮の状態が大きく影響する。次いで真皮は血管があるためヘモグロビン量や血流の状態に依存する。また、一般的にしみのように黒ずんで見えるのは可視光がそこで吸収されているからであり、皮膚に貯まった垢でも同様に黒ずみ、目の周りのくまは真皮層の血流の悪さで生じるため時間で変化がある。
 褐色になるしみには肝斑、老人性色素班、炎症後色素沈着(黒皮症)があるが、基底層のメラノサイトで色素が過剰に生産された場合に一部が真皮層に脱落して青色味をおびる。メラニンは角化細胞内で徐々に分解されるが、黒人では巨大なメラニン顆粒が消化されずに残存しており、紫外線を吸収し続けている。一方、日本人では角化層には残存メラニンは無い。老化とともに角化細胞内にメラニンが残存する脂漏性角化症も知られている。

A) 表皮が主体の老化現象

a) 老人性色素班
真皮に突出する突起に基底細胞内に多くのメラニンが含有され、表皮全体はわずかに肥厚する。CO2レーザー、ルビーレーザー、液体窒素治療により、表皮を破壊した後に毛嚢から再生してきた表皮細胞で再上皮化が起こる。
b) 肝斑
20歳以降の女性に圧倒的にみられる頬部付近に発生する小斑状色素沈着のことであり、基底細胞のメラニン含有が均等に増加する。一般的なレーザーでは増悪することがあり、注意を要する。
c) 炎症後色素沈着
主に接触性皮膚炎に見られるが、主体は基底細胞のメラニン含有の増加である。真皮にメラニンを貪食した組織球が存在し、これが主体になれば皮膚色は青色になる。毛包には色素沈着は起こらないので、網状のしみになる。
d) 真皮内メラノサイト増加症
日本人には真皮の乳頭下層の後毛細管細静脈周囲に存在するメラノサイトが色素を産生し始めことにより、灰青色を帯びた黒褐色調の色素班が発生する。先天的であれば太田母斑が代表である。
 
B) 真皮が主体の老化現象

真皮には①一定以上伸長せず張力を保つ膠原繊維②収縮力を発揮する弾性線維③水分子を豊富に持つ細胞間基質があり、これを維持できればスラリとした美しい容貌が保証される。老化とともに自らの重量のせいで頬や尻がたるみ、腹も出る。
 肌理(きめ)は真皮層の線維の方向性、細胞間基質、乳頭層の厚さが規則正しく配列した時に美しくなる。胎児においては母体内で浮遊しており外的な圧力が無いために、出生直後は肌理が美しい。
 しわは真皮乳頭層にとどまるものと真皮結合組織層までおよぶものがある。表層のピーリングで真皮乳頭層の結合織まで及ぶため小じわは消すことができる。大きなしわは真皮網状層の膠原線維や弾性線維の質の低下が原因であるため、手術的に切除して表面積を縮小するか組織容積を増加させる方法(ヒアルロン酸注射)が選択される。
 成長期が過ぎると、膠原線維はコイル状から太く直線状になり張力の方向とは45度ずれて平行に並ぶ。弾性線維は膠原線維に圧排され、湾曲する。しかし10年程度は皮膚の伸展機構は維持されるので目立つ皮膚のたるみは無い。25歳がお肌の曲がり角と言われるゆえんである。
 老人期では直線的な膠原線維は張力負荷の下ではあまり影響はないが、弾性線維はその形状が固定してしまい復元できなくなる。

4、皮膚と栄養、食事

 角質細胞の合成は28日周期で繰り返され、角化がスムースに行われない場合は厚くなり角化症となる。基底細胞の栄養は充分に与えられなければならず、ケラチンの生成素材となる含硫アミノ酸を多く含むタンパク質を摂取しなければならない。ビタミンAも角化の過程には必要である。皮脂の分泌を抑えるためにビタミンB2、B6、Eの積極的な摂取が必要である。セラミド(脂質の一種。皮膚の保湿、柔軟性を維持する働き。)を構成するリン脂質中にはリノール酸、リノレン酸などの必須脂肪酸が含まれており、植物性油脂・魚油に多く含まれる。
 真皮は表皮の10倍の厚さがあり、コラーゲンやエラスチン、ムコ多糖類で構成され、コラーゲンは動物に存在し、ビタミンCがその生成に大きく関与している。
 コラーゲンの主原料はプロリン、アルギニン、シスチィンで、コンドロイチン硫酸も必要である。タウリンは皮膚の有害物質を除去する。
 ビタミンB2は皮脂の分泌を調整して、脂性肌を予防する。
 ビタミンB6は脂肪の代謝や皮膚の新陳代謝を促進する作用がある。
 ビタミンAはβカロチンを含む人参、かぼちゃ、海草を摂取して皮膚の保湿を保つ。
 ビタミンDは日光浴で体内で作られるが、食品でとることもできる。
 ビタミンEは皮脂の酸化を防ぐ栄養素として、肌荒れ防止に効果的である。
 亜鉛の欠乏は皮疹の状態が悪化し、口内炎、舌炎、脱毛、爪の変形を来す。
 銅の欠乏はコラーゲン産生に影響する。
 食物繊維の摂取不足は便秘を引き起こし、有害な代謝産物を腸内で再吸収してしまう。
 加工食品は各種ビタミンが含まれておらず、リンのとりすぎは骨粗鬆症になる。リノール酸等の不飽和脂肪酸はコレストロール値を下げるが、多量摂取で過酸化脂質になり、老化促進の原因となる。抗酸化作用のあるビタミンE等の摂取が同時に必要になる。
 Prebioticsとは、食物繊維やオリゴ糖に含まれる有益な腸内細菌の増殖や活動を刺激する因子で、腸管の粘膜防御作用が改善される。
 Probioticsとはビフィズス菌や乳酸菌等の経口摂取する微生物で免疫力の増強、感染予防の働きがある。
 α―リノレン酸を多く含むシソ油や魚介類の摂取で皮膚のアレルギー疾患に好成績を上げている。

5、皮膚とホルモン、月経、妊娠、閉経

 初潮を迎えると、卵巣からエストロゲン、プロゲストロンが分泌され、25歳ころにピークを迎え、40歳ころから分泌が低下し、45歳ころにはエストロゲンの欠乏により更年期を迎え、卵巣機能の停止で閉経となる。

 エストロゲンは皮膚の老化を抑制し、ケラチノサイトの細胞増殖を促進し紫外線、酸化ストレスから皮膚を守る。
 低濃度では炎症性サイトカインTNF-αの産生を抑制するが、高濃度ではこれを抑制し、抗炎症作用IL-10の産生を促進する。エストロゲン濃度が極めて高い妊娠中の体内環境ではTh2優位になり、全身性エリスマトーデス(SLE)は増悪し、尋常性乾癬は軽快する。
 皮膚繊維芽細胞にも作用して、TGF-β産生、コラーゲン、酸性ムコ多糖類、ヒアルロン酸の産生を促進する。
 メラノサイトのメラニン生成を促進し、妊娠中の色素沈着、肝斑の増悪に関与する。
 プロゲストロンは、T細胞のIL-4やIL-5の産生を促進し、Th2偏位を誘導する。真皮の繊維芽細胞に作用して、コラーゲンの増殖で皮膚の厚みを増し、皮脂の分泌も亢進する。

a 皮膚と月経
 エストロゲンの増加で卵胞が成熟して、排卵が起きる。その後プロゲストロンも分泌され黄体が形成されるが、妊娠が無ければ2つのホルモンは分泌が低下して、月経が開始される。
 月経でアトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、SLEが増悪する。

b 皮膚と妊娠
 肝斑・・エストロゲン、ACTHの増加で生じる。
 妊娠線(線状皮膚萎縮症)・・線状の瘢痕になる。皮膚の過伸展で弾性線維の断裂や妊娠中のコルチコステロイドが繊維芽細胞増殖抑制作用による。
 手掌紅班、くも状血管腫、多毛が見られる。

c 皮膚と閉経
 閉経前のおよそ10年間は更年期と言われる。エストロゲンの減少は、ほてり・発汗・頭痛・肩こり等の症状を引き起こす。
 表皮・真皮は萎縮し、コラーゲン量が減り、皮膚の保水性が低下し、皮膚は菲薄化し、たるんでしわが増え弾性力が低下する。

6、皮膚のアンチエイジング

 2000年に入ってから急速にアンチエイジングという言葉が使われるようになって医学、薬学、農学、健康・スポーツ等の多くの領域から参画されるようになった。食の問題、運動領域への取り組みとヒトの老化度を測定するという取り組み等の広範囲なものとなっている。
 アンチエイジングの問題はしわやしみをなくすことが代表されるように、美容皮膚科領域での治療がすべてと捉えられていることである。肥満、喫煙、アルコール、発癌等への対応もアンチエイジングの基本理念と言える。
 とは言え、見た目のアンチエイジングも大切であり、美容皮膚科の進歩に伴い、エストロゲンの分泌の少なくなった女性の皮膚は老化を感じさせるもっとも適した臓器といえる。
 レーザー、光治療器、フィラー、ボトックス、血小板移入、脂肪幹細胞移入、キレーション、エストロゲン等のホルモン療法があるが、今後のトピックスは脂肪幹細胞移入が中心になっていくことが予想される。
 運動療法には、有酸素運動と筋トレ、柔軟体操の3つの指導がある。週23のエクササイズを目標にしたり、運動量をストレッチ10分、散歩8000歩、筋トレ15分を行う。運動による成長ホルモン(GH)の増加は皮膚の血流を増加させ、くすみも改善することが予想される。
 GHの投与やエストロゲンの投与でGH、IGF-1、さらにはDHEA-s、を介する性ホルモンの増加が皮膚の老化を改善する。老化で減少するビタミンDの補充でしみ、くすみも改善され、さらに手術療法で口囲筋の引き締め、眼瞼下垂治療がある。
 BMIと死亡率、有病率には相関関係はあるともないとも言われているが、BMIは22~23が指標になる。水溶性抗酸化物質は1日に数回に分けて摂取するように指導し、粗食、低カロリー摂取が生命予後を延長する。亜鉛やセレン等の重金属の摂取も重要で、魚・オリーブオイル・野菜等の抗酸化物質が豊富な食物、低インシュリン(GI値の低い食事)、低脂肪、高タンパク質食摂取が大切である。
 厚労省が栄養機能食品と認めているのはビタミンB12、カルシウム、亜鉛、銅、マグネシウム、鉄のみである。抗酸化物質にはビタミンA、C、E、β-カロチンがあるが、美容領域の有用性のEBMとしては明らかではない。エストロゲン投与は乳がんの発生率を2倍に上げるとされ、問題となっているが、外用薬の開発に期待がかかっている。EDTA-2Naなどのキレート剤を点滴して血管内の重金属を取り除き、動脈硬化を改善する方法もある。ビタミンCの血管内への大量投与で強い抗酸化作用が得られると考えられている。

7、美容皮膚科診断の特殊性

 一般皮膚科診療とは異なり、美容皮膚科で扱う患者さんでは肉眼的には異常を発見しづらく、よく診なければわずかな異常を見過ごしてしまう事に陥りやすい。患者さんは自分の肌を化粧ののりが悪い、乾燥肌、がさがさ、ごわごわ、くすんだ肌等で表現し、肉眼的には正常肌との違いがわからない場合が多い。
 診療を始める際には、問診が大切であり、治したい症状、いつからの症状発現か、発症の原因、増悪因子、治療歴等は記録すべきである。また、治療を行っている最中に当初の目的からずれていくことがあるので注意を要する(しみの治療できたのに、ボトックスやコラーゲンの注射でしわの治療に変わっていく)。 
 ホームスキンケアでクレンジングの使用過多、洗顔でグリコール酸等の刺激性のある石鹸を長期間使用している、スクラブ洗顔、サリチル酸を含む化粧水の長期間使用等は事前によく聞いておき、不適切なスキンケアを中止にし、正常な皮膚になってから治療を開始しないと創傷治癒や炎症後色素沈着が遷延する。美容皮膚科の問診では日常のスキンケアで皮膚にダメージを与えていないかを厳しくチェックする必要がある。
 視診では、慢性で軽度な炎症の場合は発赤・発疹が極めて小さい場合があるので注意を要する。皮膚の光沢、きめ、毛(毛孔開大、毛根部の炎症等)、弾性・軟らかさ、しわによる凹凸、色むら、色素沈着を観察する。 
 50倍のマイクロスコープの使用で肉眼では観察できない皮膚を客観的に評価できる。またメラニンの沈着量と発赤の程度が数値で表現される色差計は有用である。
 診察の結果について、主訴の診断名、発生原因、効果的と思える治療法は残さずリストアップして、治療原理、それぞれの治療方法の利点・欠点、最終的に予想される治療効果や合併症とその転帰についても十分に説明して、治療方法を決定する。

8、スキンケア

a 保湿
 表面から10~20μmの深さまで水分に満ちた表皮細胞が存在し生命活動を営んでいる。そのため、水分の蒸発を防ぐために水分子を通さない角質の表皮が身体全体を覆っている。しかし、角層の厚さによりバリア機能は異なり、顔面は薄い角層なためバリア機能は低い。角層は10~15層の表皮ケラチノサイトが重なり、その間隙をセラミド、コレステロール、脂肪酸で埋めている。バリア機能の主体は細胞間脂質であり、セラミドの大きな分子がタンパク質と結びつきラメラ構造を構成する。表皮深部は水分で潤っているが、表層近くは乾いてくるので、どれだけ水分が含有しているかが重要となってくる。

b 角層の保湿成分
 皮脂はバリア機能は無いが水分保持には働く。これは男性ホルモンの影響で顔や頭、胸部や胸背部で分泌され、成人では上半身には乾皮症は起こりにくい。女性では30歳ころから皮脂の分泌が減少し、腰部の皮膚がかさつき痒くなる。皮脂の主成分の中性脂肪は皮膚の最近で分解され脂肪酸とグリセリンに分解されるが、グリセリンが高い水分保持に働く。また、角層のタンパク質であるフィラグリンはタンパク分解酵素によりアミノ酸に変わり、水と結合して角層に柔軟性を作り出す。さらに、表皮のケラチノサイトはヒアルロン酸を作り、保湿性を増していく。

c 保湿に働くスキンケア
 クレオパトらの時代から、油脂を皮膚に塗ることで保湿を行っていた。油脂は水分の補給はしないが、皮膚の表面を閉塞し水分を貯留するので、時間とともに角層の水分は増え、次第に皮膚を柔軟にする作用を持つ。これはエモリエント効果と言われる。
 油脂は水と混ざらないが、界面活性剤を混ぜるとよく混ざる。コールドクリームは脂っぽく、バニシングクリームは油分が少なくさらっとしている。モイスチャーローション(乳液)は水分が多くなっている。
 生体にある尿素は高濃度では、爪や毛などの硬いタンパクさえ軟らかくする作用があり、踵の角質を滑らかにする。ヒアルロン酸は、保湿剤として著しく角層水分含有量をあげる。
 製薬会社の外用剤は良いスキンケア効果をもつ化粧品会社の基礎化粧品に大きく劣る。有効性の高い保湿クリームを塗っても石鹸で洗い流せるということがこれまでの常識であったが、皮膚に連続して1日2回、数日間塗布していれば、その後中止にしても数日間は角層水分含有量は維持されるとわかった。

d 毛髪のスキンケア
 思春期になるとアンドロゲンの影響を受けて、全身で生毛が濃くなる。一方、アンドロゲンは成人男性で頭部の脱毛が生じるが、これは毛根のケラチノサイトが増殖を止め、線維化が進むからである。アンドロゲンの反応性を抑えるために抗アンドロゲン剤のフィナステリドの内服が有効である。高血圧薬のミノキシジルが有効であることも1980年代に米国でわかった。

e 皮脂分泌のスキンケア
 思春期からはアンドロゲンの刺激で分泌された皮脂が表皮を被い、頭部・顔面では脂ぎってくる。毛嚢内では常在細菌の働きで炎症が起こり、真皮内へ面皰が侵入すると激しい炎症が起こる。以前はサリチル酸エタノールや硫黄等の外用薬のみであったが、面皰に有効なレチノイド外用剤のアダバレンが導入されるようになった。
 顔の眉毛、尾翼の横、胸部や背中の中央部、腋の下、股は角層のバリア機能が劣っているため毛嚢炎になりやすい。石鹸やシャンプーでよく洗って微生物を排除しなければならない。

9、レーザー

a レーザー治療の原理
 目的となる色素に到達して、特異的に吸収される波長を放ち、その組織を十分に破壊できる照射エネルギーを持つ光を照射すれば瘢痕なく治療できる。
 具体的には、赤アザにはヘモグラビンに吸収される波長、色素病変にはメラニンに吸収される波長の光を用いなければならない。ただ、メラニンは黒い色素なので可視光線であればどの波長でも良いが、皮膚深度が深い色素には波長の長い光が必要になる。色素破壊には照射時間が必要であり、長時間になると周囲の組織に影響を与える。つまり、周囲組織に影響を与えない時間でパルス照射を用いなければならない。

b レーザー治療機
 色素病変を対象にするのであれば、血管内のヘモグラビンに影響のない630nm以上の波長が望ましい。また、メラノソームの熱緩和時間である50n秒より短いパルスでないといけない。
 Qスイッチレーザーは色素に限局するために、瞬時に白くなる(IWP)。パルス長が長いと周囲組織にも影響がおよぶためIWPは起こらない。しかし、発生したIWPも照射20分後にはメラノソーム内の微細な空砲が融合するために消失し、照射部は蕁麻疹用紅班が出現する。これも翌日には消失する。しかし、YAGレーザーのような衝撃波の強いものでは内出血も起こす。皮膚にびらんや水泡が生じたものは痂皮形成後落屑するが、紅班が数か月残る。
 色素が真皮に存在するものでは、初回の照射後に炎症性色素沈着が残っていれば、2回目の照射は表皮の色素に吸収される。さらに、活性化された表皮メラノサイトを破壊すれば脱色素班を生じることもある。理想的には炎症が治まってから2~3か月後に2回目の照射を行うことが望ましい。
 刺青(墨汁)はすべての可視光線を吸収するのでQスイッチレーザーが有効である。しかし、刺青(色がついている)は個々の色素に吸収される波長のレーザーを照射しなければならない。
 パルス幅がμ秒、m秒と長い光でも表皮内の色素に対して有効であるが、瘢痕形成の可能性が高くなるので、エネルギー照射量を減らさなければならない。
 休止期のメラノサイトにQスイッチレーザーを照射してもあまり損傷を当たれることはできない。照射後の色素は一時的に消失するが表皮が再生する際に照射周辺や残存したメラノサイトが活性化して色がかえって濃くなる。これが炎症後色素沈着である。一方、メラノサイトが活動期であれば、メラノサイトは破壊され、脱色素班になる。
 老人性色素班は病的ケラチノサイトを破壊すれば、正常表皮が再生する。
 肝斑はレーザー治療後に痂皮が剥がれると、色が消えるがすぐに炎症後色素沈着が起こり、1か月後にはかえって色素沈着が増強する。その後1年で元に戻る。
 雀斑の3分の1は太田母斑であり、その治療に準ずる。

c レーザー脱毛
 毛包に存在するfollicular stem cell(fsc)を破壊し、永久脱毛となるが、fscは毛根鞘の最外側に存在するためパルス幅を長くする必要がある。しかし、このパルス幅では皮膚を傷めてしまうので、パルス幅をある程度短くしなければならない。となれば、1回の治療では永久脱毛はできない。

d rejuvenation
 Photoablation・・・レーザーでピンポイントサイズで皮膚に穴をあけて皮膚表面の組織を除去する。
赤外線レーザーで組織が蒸散する。紫外線レーザーでタンパクに吸収されて光化学作用で組織が除去される。
Laser skin resurfacing・・・老化で変性した表皮と真皮上層をレーザーで除去
(Lsr) し、新たに皮膚を再生させる。皮膚にひきつれを起こしてしわを目立たなくする方法で、黄色人種ではかなり有効であるが頸部では、瘢痕が目立つ場合がある。
Non-ablative laser・・・Lsrは副作用のリスクが高いので、レーザー照射と同
(Nal) 時に皮膚を冷却するNalが開発された。水に吸収される水specific レーザーと血管周囲に障害を来す血管specific レーザーの2種類がある。
Fractional laser skin resurfacing・・・面で皮膚を削るLsrは瘢痕が目立つが
肉眼では見えないような点でskin resurfacingを行えば、瘢痕は目立たない。多数の点で削れば皮膚のしわ伸ばしに有効であるが、点で削るため何回も行わなければならない。特ににきび痕などの点状陥没痕には第一選択となる。

e 高出力パルス光発生装置
 IPLはm秒レベルのパルスレーザー装置に匹敵するため真皮内のメラノーシスの治療はできないが、表皮内のメラノーシスである老人性色素班や粘膜の色素班の治療に使用できる。しかし、レーザーよりエネルギー照射量が少ないため薄い色素班には効果は少ないが、痂皮形成や炎症後の色素沈着が少ないためすぐに化粧ができる利点がある。
 ヘモグロビンにも吸収される光を含んでいるので、毛細血管拡張症にも効果があり、また顔面の産毛の脱毛効果があるので、肌がつるつるになったと喜ばれる。

10、脱毛

 脱毛には毛抜き、shaving、wax脱毛、電気脱毛があるが1990年代からはレーザーホワイトライト脱毛(IPL type)が主流を占めている。
 毛抜きはhair shaftを除去することでanagen期の毛根を刺激して毛の成長を促し、かえって毛の成長を促すことが多い。
 電気脱毛はレーザーホワイトライト脱毛が普及するまで唯一の永久脱毛であった。電気で毛包を破壊するものである。施術後に感染を起こし毛包炎を起こす場合がある。
 レーザーホワイトライト脱毛の原理
  毛の中のメラニンをターゲットにして100℃以上にまで上昇させその部分を気化させる。その周囲の毛包は壊死する。メラニンは690nm領域で高い吸収をしめす。しかし、深層の真皮内の毛包は長い波長の方が到達するため、高い効果を表す。
  日本人では表皮のメラニンが多いため、熱傷等の皮膚トラブルが発生しやすいため、パルス幅を長めに設定し(10~50ms)、表皮や毛包のthermal relaxation time 10~100msを設ける。10msのパルス幅は長いという意見もあり、各社が開発に悩んでいるところである。
  レーザーホワイトライト装置はIPLタイプとして知られ、波長も500~1200nmというようにメラニンに吸収をもつブロードバンドであることが特徴である。
 レーザーホワイトライト脱毛を行う際に考慮すべきこと
  レーザーの出力を上げた方が脱毛の効果は大きくなる。しかし痛みも大きくなる。パルス幅が大きいほど出力も大きくしなければならない。
  パルス幅が小さいほど皮膚表面に熱傷が生じるため、冷却がひつようになる。大きなスポットサイズは処理も早く、深層まで到達する。
  日本人には長い波長、長いパルス幅が推奨され、広範囲の患部には大きなスポットサイズが望ましい。また、メラニン量が白人に比べて多いため、色素沈着や色素脱出を起こしやすい。特に日焼け後や処置後に日焼けする場合には施術を避けるべきである。その説明も必要である。出力の調整のためにテスト照射は望ましい。
 レーザーホワイトライト脱毛の手技
  施術前のビタミンAの塗布、日焼け、wax脱毛、毛抜きは禁止とする。術野の剃毛は必要である。施術前の冷却も行う方が良い。
  施術後は毛包の部分に一致して紅班と軽い浮腫があれば有効な施術と言える。

11、機器を用いたスキンレジュビネーション

  表皮損傷を伴う剥離的治療(ablative skin rejuvenation)と皮膚損傷を伴わない非剥離的治療(non-ablative skin rejuvenation)があり、レーザー・IPL・高周波などの熱源が用いられ、特にIPLは表皮と真皮の両方に効果がある。ここではIPLについて詳しく説明してみよう。
  IPLはIntense Pulsed Lightの略称で、広帯域の強力な可視光線を発振するフラッシュランプを称したものである。
  1990年代からあざの治療や脱毛治療に使用されたが、顔面の色素班の治療を受けた患者さんの皮膚が若返り効果を得たことから、顔面全体のレジュビネーションに用いられるようになった。3~4週間の間隔で5回程度の繰り返し治療が望ましい。
  適応は表皮性の色素沈着、皮膚の弾力性の低下、きめの乱れ、毛孔拡大、毛細血管拡大症であり、肝斑の治療には注意を要する。また、真皮に対する効果は比較的少ないので、しわやたるみの改善には期待すべきではない。
  利点としては、皮膚老化の総合的な改善が得られる。治療直後からメイクができる。短時間で顔全体の治療が可能である(10分間)。
  欠点としては、回数を重ねなければ効果がわからない。繰り返し治療(3~4週間毎に3~5回)で治療期間が長くなる。レーザー等の専門的な治療に劣る場合がある(Qスイッチレーザーによる色素班の治療)。しかし、IPLは治療後に炎症性色素沈着を起こしやすい人には、大変有用である。
  作用機序
a. 光熱溶解論 selective photothermolysis
血管性病変にはヘモグロビンの吸収がいい500nmの波長を含むIPLを用い、色素性病変には500nm前半から発振するIPLを用いる。肌の色が黒い人や肝斑の部位には600nmから発振したほうが良い。
b. 熱影響
IPLの光熱作用で真皮コラーゲンに微細損傷が起こると、新生コラーゲンが発生し、コラーゲンの量や密度が増加する。しかし、確かな波長やパルス幅がわかっていない。ただ、効果が広い波長、パルス幅と考えられるため、臨床的な効果は認められている。
  治療の実際
a. 強い照射と弱い照射を適切に扱う。顔全体の照射は肌の色と肝斑の有無で決定する。肌の色が濃い場合に強い照射は火傷する。肝斑は肌の色が薄くても弱くしなければならない。肝斑以外の色素班や毛細血管拡張症では強い照射でおこなえば少ない回数で高い効果が得られる。
b. 治療の効果はエンドポイントで探る必要がある。正常部分はピンク色、色素班は軽度濃変、毛細血管拡張症は消失、紫色に変色がエンドポイントであり、これが見られるまで数回追加照射を行う。
c. 経過は、色素班では3~7日後に痂皮が脱落して、色調が淡くなる。
毛細血管拡張症では数回の治療で実感する。コラーゲン増生で小じわは消失していく。
d. 合併症は火傷と肝斑悪化があり、手技の熟練や設定の加減で切り抜けられる。冷却や外用塗布剤で軽快するが、炎症後の色素沈着には気を付ける。
e. ADMはIPLでは改善を望めないので、UVカメラの利用で診断ができ、また潜在性の肝斑も診断できる。
f. 経過は、簡易画像解析装置(VI-SIA:Canfield社製)を用いると、双方にメリットがある。

12、ケミカルピーリング

 ケミカルピーリングは皮膚に化学薬品を塗布して表皮を剥離させることで皮膚の再生を目的としている。
 ケミカルピーリングは治療時の皮膚の状態を正確に把握していなければならず、診断が最も大切である。
a. 角層を剥離・・・グリコール酸、乳酸等(AHA)は角質細胞の接着を弱め、
サリチル酸は、角質を軟化、溶解させる。
AHAは細胞代謝を促進し、コラーゲン産生を促進し、チ
ロシナーゼ活性を抑制し、メラニン産生を抑制する。
b. 真皮までの剥離・・TCAは表皮や真皮細胞の壊死を誘導し、フェノールは
真皮血管内皮細胞のアポトーシスを誘導する。

 適応疾患は色素性疾患があるが、2004年には認められていたが、現在では推奨されていない。しわも認められていたが、小じわに適応があるとされている。

 効果と限界・・メラニンが真皮由来であれば、レーザーが推奨され、角質層レベルのくすみにはケミカルピーリングは良い適応がある。高齢者にはTCAなどの深いピーリングで皮膚の質感や市ワンオ改善に有効である。日光性色素班では、レーザーが推奨される。

13、トレチノイン療法

 レチノイドの外用で表皮において表皮角化細胞の強い増殖促進作用がみられ
表皮は肥厚する。レチノイドを大量に投与することで、ターンオーバーが早く
なり、落屑が激しくなり、さらに基底細胞周辺のメラニン排泄が促され、メラ
ニン産生を抑えるハイドロキノンとの併用で相乗効果がみられる。しかし、真
皮層のメラニンの減少はみられなかった。また、皮膚炎が高頻度で起こるため、
慎重に使用する必要がある。別作用として、角質の剥離が促されることから、
二次的に薬剤浸潤性が高まり、にきびへの治療効果が高まる。真皮では繊維芽
細胞のコラーゲン産生促進、MMP抑制で光老化による真皮菲薄化を抑制する。
 よって、尋常性痤瘡、尋常性乾癬、ケロイド、日光性角化症等の治療に使用
されていたが、外用剤は日本では未承認のため個人輸入となる。
色素疾患・・治療段階を漂白段階と治癒段階に分ける。
 漂白段階・・トレチノインを色素班だけに、注意深く塗布し2週間~6週間
       おく。
 治癒段階・・その後、色素が消失、軽減した段階でトレチノインを中止しハ
イドロキノンを4~6週間広範囲に塗布する。
再度、トレチノインを使用する場合には、耐性が消失する1~2か月後から始めることができる。
 過角化や真皮内色素沈着がある場合には、外用療法は有効でない場合が多い
ため、レーザー療法との併用が必要となる。

Skin rejuvenation(小じわ、皮膚の張りの改善)
 0.1%のトレチノインゲルを2日に1回程度顔全体に塗布し、必要に応じて濃度、回数を増やしていく。長期使用で表皮・真皮ともに肥厚して張りが出てくる。2か月間の使用で、2か月間以上の間隔を開ける。

14 肝斑

肝斑は後天性斑状色素増加症で表皮のメラニンの増加と真皮の光線性弾力線維変性を特徴とする。
原因としては、卵胞ホルモン、黄体ホルモンによる色素細胞の活性化によるとされる。また、紫外線が発症に不可欠であると言われ、メラノサイトが異常にメラニンを産生している。

30代、40代に多く、前額・頬骨・上口唇・下顎に左右対称に出現する。

メラノサイトの数は正常だが、サイズが大きくなり、発達した樹枝状突起の中にメラニンが認められる。基底層、その上の角化細胞内のメラニンの増殖が著明である。

トラネキサム酸の内服が第一選択で、その抗プラスミン作用で日光や避妊薬、妊娠により活性化するプラスミンを抑え、アラキドン酸やプロスタグランジンの産生を抑え、メラノサイト活性因子を抑制する。

0.1%のトレチノイン水性ゲル、5%ハイドロキノン乳酸軟膏の塗布で8か月後に改善する。

レーザー治療は有効性が確立していない。

15 老人性色素班

40歳以降に発症する日光露出部に多発する境界明瞭な褐色の色素班である。
角化細胞が光老化し色素細胞を活性化するET-1の分泌が亢進し、メラニンを多く含むケラチノサイトが増殖する。

 レーザーやIPLで良くなる。

 

16 しわとたるみ

 皮膚の乾燥や廊下によるものと表情筋の働きによるしわ、たるみがある。
 表情筋を弛緩させることによりしわを治療するという方法が定着してきており、レーザー治療やボツリヌス注射が有効である。

 しわやたるみは支点・力点・作用点の3つの要素で発生する。つまり、表情筋の収縮が力点で、皮膚の変形部位が作用点、皮下の支持靭帯が支点である。
皮下の脂肪を含めた組織の弾性・厚さの程度で発生の因子になる。

 治療は、力点と支点の改善が考えられる。力点はボツリヌス毒素注射や表情筋の切除で機能を停止にする。支点はフェイスリフトや靭帯切離術等がある。
また、作用点付近にはコラーゲン注射やレーザーによるレジュビレイションがある。

        参考:美容皮膚科学 改訂2版  南山堂

投稿者: ベースボールクリニック 北城整形外科

2019.12.03更新

短距離走では硬い筋肉が有利となる

 一般的に筋肉の質を判断するために皮膚上から筋肉を押して柔らかい柔軟な筋肉だと言って評価する傾向があります。しかし、これでは筋肉の走行に垂直に押して判断しており、筋肉の硬さやコンディションしかわかりません。
 そこで、超音波剪断波エラストグラフィ用いて、科学的に筋肉の質を追求しました。短距離選手22人と長距離選手22人を対象にして、大腿四頭筋外側広筋を調査しました。結果は短距離選手では伸び縮み少ない選手、長距離選手では伸び縮みの多い選手のタイムが良く、パフォーマンスの高さが証明できました。

筋肉の硬さに影響する先天的要素と後天的要素
 この結果から、筋肉が硬いほうが短時間に筋力を発揮できると推測されます。
つまり、筋腹が太く、硬いほうが短距離に向いており、長距離選手では筋肉が硬いとパワーやスピードのロスが多くなり、柔軟性があるほうがスムースな動きが得られると考えられます。
 筋肉はストレッチで柔らかくなり、ウエイトトレーニングで硬くなると報告されており、短距離選手のように短時間で最大筋力を発揮する必要のある競技では、ウエイトトレーニングを励行し、ストレッチを行わないという選択が生まれる可能性があります。

常識を疑い、適切な処方を行う
 ハムストリングの肉離れがストレッチ不足で起こるという科学的な根拠はまだありません。競技が異なるのに、ほとんどが同じストレッチを行っているのが現実で、ストレッチの有効性も否定されつつあります。
 筋肉の柔らかさは、肉離れとどのような関連性があることは、まだわかっていません。今後は明らかになってくると考えますが、競技特性とアスリート個人の特性を考えて、カスタム化したトレーニング内容にするべきと思います。

                                                                                        参考:宮本 直和 コーチング・クリニック1月号 2020年

投稿者: ベースボールクリニック 北城整形外科

2019.05.02更新

 筋力増加と有酸素能力の向上はすべての競技において求められると思います。この組み合わせのトレーニングは必然ともいえるでしょう。これまでは時間を開けてもしくは日を変えて行うことが当たり前でしたが、現在ではこの2種類のトレーニングをセットで時間差なく行うことが良いと言われてきています。疫学的にも有酸素能力の低下が病気を引きおこしやすいと分かっており、筋力の増加・維持も健康な生活を送るのに必要とされています。
 筋トレと有酸素運動のどちらを先に行うかは、意見の分かれるところですが、一般的には後に行ったトレーニングが身体は反応すると言われています。しかし、主な目的のトレーニング(筋トレ)を先に持ってくることが、疲労のない状態では行えることで安心感があるので、例えば有酸素運動で心肺機能を追い込んだ後に筋トレを持ってくることは現実的ではないと言えます。さらに、筋トレで上昇した血圧を有酸素運動でマイルドに血圧を下げていく効果もあり、高進した循環器系を落ち着かせます。ただ、純粋に筋力アップを求めるアスリートには、有酸素運動を加えることで、筋肥大の効果を減弱することもあると言われており、トップアスリートには適さないと言えます。一方、学生スポーツでは練習時間の制限があり、このセットトレーニングは必要になりますが、有酸素運動の割合が大きくなると阻害効果が出ることもあるため、短縮した有酸素運動時間や種類を選択する必要があります。
 最近では、筋トレに高強度インターバルトレーニング(HIIT:High-intensity interval training)を組み合わせた研究があり、仕事量を少なくしても同じような有酸素能力の向上が望めると言うことですが、まだデータが少ない所なので信頼性は高くはないと考えられています。
 いずれにしても、筋トレと有酸素運動は6~8時間の間隔がベストと考えられているので、朝練と夕方の練習ができる環境であれば、いずれの効果も十分に得ることができるということです。これまで述べた短時間で行う筋トレと有酸素運動のセットメニューは個々で効果も違うのでチームで行う場合には、気を付けなければなりません。
         

                                    参考: 菊池直樹  コーチング・クリニック  6月号  2019年

投稿者: ベースボールクリニック 北城整形外科

2018.06.28更新

筋力と瞬発力の関係

 

野球では競技の特性上、最初の動きだし、瞬時の判断力が重要となります。

その中でも、盗塁はその必要性が高くなります。速筋を鍛えて瞬発力を高めることも大切ですが、神経系のトレーニングも必要になります。つまり瞬発力と言うものは筋力と神経の連動がうまくいかないと発揮できないことを覚えておいて下さい。

 筋力アップには、ボックスジャンプ、バーベルジャンプ等のトレーニングが有効と考えられており、盗塁のスタートの際の安定性を得るためにバランスボールの活用で体幹の軸安定性を獲得する必要があります。さらには、走塁中にも体幹の安定性が無ければ効率の良い走りは得られません。

 試合前のアップでは、全力での盗塁ダッシュを何本か行って、筋力の緊張を経験していなければ試合で筋断裂が起こることを防がなければなりません。

 

好スタートを導く決断力と観察眼

 

 好スタートは帰塁に注意するよりも2塁への「go」の気持ちが大切です。しかし、この気持ちが大きすぎると失敗しますので注意が必要です。そもそも、完璧なスタートは少ないので、中間の速度やスライディングの技術が成功に大きく係わってきます。

 相手投手の癖も見抜くことも大切ですが、自分の後を打つチームメイト(打順で変わる)への配球を考え、捕手の配球癖も考えて、変化球を投げる時に盗塁を仕掛けなければなりません。

 

成長を促す選手の自主性

 

 筋力アップには片脚ジャンプが有効で、体幹のバランスを維持しながら、より高くジャンプできるようにしましょう。

 ミニハードルを用いて素早くステップを繰り返す練習も全身の筋肉を使いながら脚の回転数を高めることができます。

 指導者は、練習の意味をしっかり選手に説明し、選手の自主性を引き出さなければ練習の持続性は得られませんので、頑張らなければなりません。神経系の発達は小学生が最も高いのですが、筋トレのやり過ぎにも注意が必要です。

 

参考資料: 鈴木 尚弘  コーチング・クリニック 8月号  2018年

投稿者: ベースボールクリニック 北城整形外科

2018.04.16更新

 筋肉痛には早発性筋痛と遅発性筋痛があります。前者は運動中、運動直後に起こるもので筋・筋膜断裂が原因とされます。後者は乳酸やその他の代謝物質が筋肉内の侵害受容器を刺激して起こるものです。

 

名古屋大学の研究では、筋肉の疲労で筋繊維の膜の透過性に異変が起き、クレアチニンキナーゼ、ATP、アデノシンが筋繊維から放出され、血管の中に入っていく。血管内皮細胞からブラジキニンが分泌されて、その後の種々の連鎖反応で侵害受容器を刺激して痛みを起こす。これは、筋肉の破壊から筋肉痛が起こるものではなく、神経が過敏になって、筋肉痛用の痛みが生じるというものです。

 

1984年に発表された学説では、筋肉内のブラジキニンが筋肉の炎症で発生し、筋肉痛が出現するというものでしたが、覆されたのです。

 

つまり、MRI検査で筋組織の破壊が無く、短期間に炎症が取れてしまえば、早期に運動への復帰が可能と言うことです。

 

遅発性筋痛には2種類の状態があります。1つは筋繊維へのダメージが少なく、筋肉内の感覚器が敏感になっているだけの場合、2つは筋繊維に小さな損傷がある場合で、これは前者と比べると格段に治療期間が長引きます。前者の場合の対処方法には、安静を保つことよりも、運動を継続して神経の感受性を低くしてしまうことが有効なことも考えるべきでしょう。その際には運動量を上げすぎないことに注意が必要です。服薬としては、過敏な神経をブロックする薬の使用が効果的でしょう。

 

運動の種類では、エキセントリック収縮(伸張性収縮)で筋肉痛が起こりやすいので、筋トレではこの作用を利用して、バーベルを持ち上げるときに補助をしてもらい、下ろす時には補助を外すというトレーニング方法が推奨されています。

 

参考資料: コーチングクリニック 2018年 5月号  石井 直方

投稿者: ベースボールクリニック 北城整形外科

2018.03.08更新

運動前、運動中、運動後のアミノ酸摂取には種類があることをご存知でしょうか?

アメリカではそのサプリメントの販売がコーナー別に陳列されて、わかりやすくなっています。

ここでも、3つの摂取時間帯に分けて説明します。

 

1、運動前

   アルギニン、シトルリンには血流を調節する作用があるので、高い集中力やパフォーマンスを発揮するために、運動前に摂取することが良いのです。

   アルギニン・シトルニンには一酸化窒素(NO)の産生を促し、血管を拡張させると考えられています。

 

2、運動中

   体内で筋肉を作ったり、破壊を抑制するBCAA(branched chain amino acid)の摂取が勧められます。

 

3、運動後

   運動後は免疫力が落ちているので、グルタミンの摂取が勧められています。

  グルタミンには免疫細胞のエネルギー源として働きがあり、風邪やインフルエンザの予防にも期待されています。

 

           参考資料 : コーチング・クリニック  4月号  2018年

投稿者: ベースボールクリニック 北城整形外科

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